ASD(自閉症スペクトラム)の人がありがとうやごめんなさいが言えないという話はよく聞きますし、本などでも特性としてよく見かけますよね。
「自分がそうだ」「身近にいる」という方もいるかもしれません。
しかしその原因には様々な特性や性格、価値観が重なり合っており、対応策も個々に違ってきます。
前編ではその原因について詳しく見ていきますのでしっかり理解してもらえればと思います。
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原因
- 本当に思っている時には言えるがそうでないときには言えない(言う必要を感じない)
ASDの人は相手の立場になってその感情を自分事のように味わうことが得意ではありません。
場の雰囲気や相手の感情に配慮して、自身の内面とは違う言動や行動をとることも難しいです。出来ないわけではないですが、定型発達の人が考えるよりも圧倒的なストレスを感じます。
「言っておいたほうが得(得策)」「相手のために言おう」などの打算や計算、配慮の発想が元々あまりない、そういう価値観を持っていることも、言えない原因を強めているでしょう。
感情が読めないことや感情よりも事実面を大事にしていることも要因のひとつです。
映画などを観て泣くASDの人に対して「他人に共感や感情移入して泣ける」と感じるかもしれませんが、自分の立場から見て「同感」出来ることが涙のトリガーになっている事も考えられますので、自分と違う感情への配慮や共感とは別の種類のものと考える必要があるでしょう。
- 自他境界があいまい
自他境界とは自分と他人を区別し、別々の人間であると認識する線引きのことです。これがあいまいなASDの人は多く、そのため「自分が知っていることは他人も知っている」という感覚が無意識的にあります。そうすると「反省していることは言わなくても伝わっている」「自分がこんなにつらい気持ちなんだから、そんなの言わなくても分かる」といった発想になり、気持ちを伝えることをしなくなります。
- プライドが高い(性格的なもの)
ASDの人がいかに事実面を判断基準に置く価値観を持っているといっても、ASDの人も人間であり精神年齢の概念も当てはまります。シンプルに心が未熟という場合もあるということです。
したがって、特性をうち消しているように見えるほどに性格の影響を受けている場合もあります。
プライドが高い以外にも、天邪鬼やシャイだからなどの理由も考えられます。
- 一度言ったから終わり
ASDの人は記憶力が非常に良い人も多く、特に自分が過去に言ったことは忘れない人もいます。
なので以前に一度言っているから、相手も覚えているはずだしまた言う必要はないと考えているかもしれません。
また、他の項目に書いた原因が重なり合って、再び言うことをしたくないとも思うのです。
但し、他人に言われたことや興味のないこと、何か他のことをしながら話したことなどに対する記憶力は低い場合もありますから、一括りに判断することは難しいでしょう。
そして「自分の中では終わっているが、相手の中では終わっていないこと」の判断が上手じゃないこともあります。人間関係の中でこのような齟齬はASDでなくとも多くあることだと思いますが、ASDの人はこの押し引きや配慮が特に苦手です。
- とりあえず謝るくせがついている場合も
以上のようにASDの人にとっては適切に感謝や謝意を伝えることが難しいのだとお分かりいただけるかと思うのですが、その結果とりあえず謝るくせがついている人もいます。
とりあえずでもマメにありがとうと言う場合は良いことですが、とりあえず謝る事に関しては言われたほうは「感情が入っていない」「何がいけないのか理解していない」などのことが分かってしまいますので全く得策ではないです。
まとめ
ASDの人がありがとうやごめんなさいが言えない原因について見てきましたがいかがだったでしょうか。
特性、性格、価値観、環境など様々なものの影響が重なり合っていることが分かったのではないでしょうか。
定型発達の人にとっては感覚的には理解しづらい部分があるかもしれませんが、固定観念に捉われることなくASDについての理解を深めてもらえればと思います。
ASDの人は「これ自分にもあるなー」と感じるものがあったかもしれません。
「悪い」や「劣っている」ものではありませんので「恥じる必要はない」ですから、自分自身をしっかり見つめて、自己理解、特性理解を深めていってください。
次回は後編となり、ASDの人がありがとうやごめんなさいが言えないときの、本人、支援者それぞれの対策について見ていきます。
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