今回は、『【ASDの人は言語化が苦手⁉】感謝や謝罪が出てこない原因。本人の対策、周りの対応について解説。』の後編となり、ASDの本人の対策と周りの対応について解説していきます。
前編をまだ読んでいない方は先に読んで、原因を把握しておくことをオススメします。
【ASDの人は言語化が苦手⁉】感謝や謝罪が出てこない原因。本人の対策、周りの対応について解説。(前編)はこちら
それではASDの本人の対策から見ていきましょう。
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ASDの本人の対策
ASDの人の基本的な対策としては「声掛けを頻繁に、丁寧に」です。
以下に具体例をいくつか紹介しますので参考にしてみてください。
- 結果だけでなく過程や相手の気持ちに対してお礼やお詫びの気持ちを表現する
ASDの人は完成度の高さや出来上がりの質といった、最終的な結果を大切にする傾向があります。
もちろんこれは良いことです。ただ、注意したい点として過程への評価をおろそかにし過ぎていないかを考える必要があります。
定型発達の多くの人は、結果はもちろん大事ですが過程も同じくらい大切にしています。
「みんなで一緒に頑張った」とか「楽しい時間を過ごした」といったことに価値を見出しているのです。
ですので、例えば、お願いしたことに対して相手が結果を出せなくても「頑張ってくれてありがとう」と過程に対してお礼を言ったり、仕事などで自分が結果を出したとしても、過程で一人で進めていて一体感を持てずにいたことを「一人で進めちゃって、声もかけずにすみません」と詫びたり、待ち合わせで遅刻はしていないけど相手のほうが早く来ていた場合に「お待たせ!」や「待たせてごめんね!」と声をかけるなどが、円滑な人間関係のためには必要になってきます。
- 違和感や疑問が少しでもあれば伝える癖をつける
人と会話をする中で、こちらの意図が伝わっていないような感じがしたり、相手が何を言っているのかいまいちわからないことがあると思います。
話の流れで聞き返せなかったり、相手が急いでいたりして「まあいいかな」「このくらい大丈夫だろう」とそのままにしてしまうこともあると思いますが、こういった対応が後々に積み重なって大きな痛手として返ってきてしまうかもしれません。
コミュニケーションのちょっとした齟齬は侮ってはいけません。「あれ?なんか変だな」といった和感や疑問が少しでもあれば伝える癖をつけましょう。
ASDの人は相対的に、「相手から自分に発せられた違和感を感じ取る力」は「自身の言葉や行動が相手にどう受け止められたかを感じ取る力」よりも強い傾向がありますので、自身の直感を思考で打ち消すことなく違和感は違和感として大切にし、その場で「今のはどういう意味か教えて」や「ちょっとよく分からないので詳しく教えて下さい」といったワードでコミュニケーションの齟齬を埋めていきましょう。
また、その時に上手くコミュニケーションが取れずに終わってしまったことでも、別れ際や後日など、時間を空けて「あの時のあのことが気になって」などと話を切り出してみるといいでしょう。
全体的な注意点として、すべての人が等しく向き合ってくれるわけではないことが挙げられます。
ざっくりとした言い方になりますが、こういったやり取りを深めることを「面倒」と思う人もいますし、「そういうのは察するべき」という価値観の人もいます。これらのタイプの人とはASDの人は相性が悪いです。
ですのでこういった人たちとはあえて距離を取り、自身を守ることを優先することも大切です。
周りの対応
周りの人の対応は基本的にまず、相手を知ることが大前提となります。
ASDの特性とその人の価値観は、定型発達の人の想像が及ばないところにあります。
最終的には本人の性格や育まれた価値観などをトータルで見ることですが、ASDの人を理解するうえではその特性を理解することをスタートラインとすることが第一歩となります。
以下で具体例とともに解説していきます。
- 感謝や謝罪が出てこない理由をとことん質問し、偏見を捨てて考察する
「○○だろう」「△△と言っている(行動をとっている)ということは○○のはずだ」という一般的な予測は、相手がASDの人であれば外れていることが多くあります。
本人が言っていたとしても、実は内心や潜在意識では異なる意見や気持ちを抱えていることもあります。
そのため、周りの人がASDの人の話をしっかりと聞き、特性に対する知識をフル活用して考察していく必要があります。
考察が難しいと感じるかもしれませんが、そんな場合はまず知識量を増やしましょう。
本をたくさん読むことをはじめ、最近ではYouTubeなどでもお医者さんや当事者の方が発信していますし、当事者会も増えています。
当事者会によっては家族や周りの人、支援者の参加が可能ですので、出来る限り一次情報を取りに行くように心がけましょう。
筆者の主催する会(こちら)もありますので、参考にしていただければ幸いです。
知識が増えれば道は必ず開けます。
その過程で仲間や支援者も見つかるはずです。
- 察しあうことを当たり前と思わない
察しあいの文化はすばらしいものですが、ASDはその文化圏の住人ではありません。
「言わないでも察してほしい」「お礼の言葉を言わせても、それでは感謝していることにはならない」という声も当然ありますが、察しあいとは価値観のひとつであり絶対的なものではありませんので、ASDの人とのコミュニケーションにおいては「ちゃんと言う」というスキルを身につけ使っていきましょう。
「ちゃんと言う」と一言でいっても意外と難しいもので、照れやプライドなどの心理面と、言葉の扱い方などの技術的な面の二つをクリアしている必要があります。
ここでは技術面のテクニックとして「I(アイ)メッセージ」をお伝えします。
Iメッセージは主語を「私」にして相手に伝える方法で、これによって相手を否定せずに自分の気持ちを伝えることができ、円滑なコミュニケーションへと繋げることができます。
例えば相手が遅刻してきたときに「遅い!」「いつも遅刻だよね?」などといった声掛けは「YOU(ユー)メッセージ」といい、「(あなたが)遅い!」「(あなたは)いつも遅刻だよね?」と相手を責める表現になります。
これをIメッセージにすると「私はいつも待っている」「(私は)待たされて辛い、悲しい」「(私は)いつも待たされるので、大切にされていないのではないかと感じる」といった形になります。
このように言われると相手も「ごめん」や「大切に思っているよ」と言いやすくなります。
但し、ASDの人に限らず「お前が勝手にそう感じているだけだろ!」などと言ってくる人がいると思いますが、それはASDの特性ではなく、その人の性格、精神的幼さ、パーソナリティ障害などの他の精神疾患を疑ってください。
また、ASDの人との立場にもよりますが、謝るべきところやお礼を言うシチュエーションなどを教えていく必要がある場合もあります。
ASDの特性によって、特定のことが自然と学べず、身につけられずに育っている人もいますので、そういった人に対しては丁寧に教える必要があります。
- ASDの人は察しあいに嫌悪感を抱いているかも?
定型発達の人にとっては当たり前で、ひとつの優しさでもある察しあいですが、「言わされている」ように感じるASDの人もいます。
何故「ありがとう」や「ごめんなさい」を言う必要や意味があるのか、論理的に説明しましょう。
その際は「お礼や謝罪で部長の機嫌が良くなる」「部長の機嫌が良いとあなたのミスが許されやすくなったり、助けてもらえるようになる」などのメリットを伝えましょう。
まとめ
『【ASDの人は言語化が苦手⁉】感謝や謝罪が出てこない原因。本人の対策、周りの対応について解説。』というテーマについてでしたが、いかがだったでしょうか?
ASDの人と定型発達の人のコミュニケーションではお互いに誤解してしまっていることや、価値観の違いによるものが大きいことが分かったのではないでしょうか。
こういったことは、ASDの知識をつけたり、ちょっとした確認を怠らないことで相互理解が深まり解決に向かっていくはずです。
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