この記事の概要
- ASDグレーゾーンの特徴・悩みについて、当事者の人たちの生の情報を集約
- 当事者の生の情報から、課題を導き出し、解決策や支援策を提示
- ASDグレーゾーンの人の周囲の人にも役立つ内容
- 読み終わった後、次の行動が見つかる
この記事はASDグレーゾーンの特徴について、ASDグレーゾーンの当事者であり「ASDグレーゾーンの交流会」を主催している筆者がまとめています。
確定診断がしっかりと出ているASDの人々とは違う、発達障害グレーゾーンとも違う、ASDグレーゾーンという属性について、自身の特徴だけではなく現場で見て聞いて積み上げてきた集合知を共有していきます。
また、悩みや解決のヒントとなる情報も記載していますので、是非参考にしていただければと思います。少しでもあなたの心が軽くなれば幸いです。
【ASDグレーゾーンとは】
ASD(自閉症スペクトラム)グレーゾーンとは、ASDの確定診断を受けていないがASDの特性が認められる人のことを指します。
具体的には病院未受診のASD疑いの人や受診したけれども「傾向あり」と診断されるに留まった人です。
【ASDグレーゾーンの特徴】
ASDグレーゾーンの人々は、診断基準を満たさないがASDに由来する特性があるために社会的に困難な場面が多々あり、診断基準を満たさないために福祉や支援を受けられずに、または見過ごされてきたために苦しい思いをしている、ということが最大の特徴として挙げられます。
また、特性が軽いからこそ「自身と社会との折り合い」に悩み、「上手くいかないコミュニケーション」に悩み、「みんなが楽しそうにしている物事に興味を持てないこと」に悩んでいます。
自分を見つめ、他者を見つめて寄り添おうとすることができるからASDの診断基準を満たさない、それでもASDの特性は確かにあるから上手にできないことが多い。
「いっそのこともっとバキバキの障害者だったら楽だったのに」と考えてしまったりしています。
【ASDグレーゾーンの人の特徴的悩み】
ここからはASDグレーゾーンの人々が共通して持つことが多い、特徴的な悩みについて見ていきます。
ASDの確定診断を持っている人にもこれらの悩みがないわけではないけれど、ASDグレーゾーンの人には特に当てはまることについて取り上げています。
- 人間関係に悩んでいる
- 自分と周りとの違いに自ら気づき、合わせようとするが合わせられない
- 周りに相談しても「見えない」「考えすぎ」と言われてしまう
- 世間話に興味が持てない
- 一人が好きだけど誰かといたい
- 人に気を使いすぎてしまう
- 自分を責めがち
- 疲れやすい
- 正義感が強すぎる(指摘してトラブルになるか、言えずに思い悩む)
- 発達障害のコミュニティに馴染めない
これらの悩みは、「定型発達にもある」「誰にでも当てはまる」「性格によるんじゃないの?」と感られてしまうかもしれませんが、一つ一つの項目ではなく全体を通して見れば、これらを併せ持つことがASDグレーゾーンの特徴的な悩みなのだと言うことが見えてくるでしょう。
1.人間関係に悩んでいる
ASDグレーゾーンの人は人間関係に悩みを抱えている場合が多いです。
「ASDの人は他人に興味がないんじゃないの?」と、ASDについて知識のある方は疑問に思うかもしれませんが、ASDグレーゾーンの人は他者と相互に良好な関係を築きたいと考えている人も多く、それでいて特性などによって上手くできないために、人間関係の悩みを抱えてしまいます。
2.自分と周りとの違いに自ら気づき、合わせようとするが合わせられない
ASDグレーゾーンの人は特性が軽度であるがゆえに自分と他者との違いに気づくことができます。
しかし、気づいた段階ではASDに関する知識がない場合が多いので、定型発達の人に合わせたコミュニケーションスタイルを取るのは困難です。
3.周りに相談しても「見えない」「考えすぎ」と言われてしまう
ASDグレーゾーンの人は特性が軽いので一見、特性があるようには見えません。
本人も他者に迷惑を掛けたり、変に思われたくないために特性由来のものを隠そうとしてしまうこともあります。
そのため「見えない」「考えすぎ」と言われてしまい、モヤモヤとした気持ちを抱えたり、人知れず傷ついたりしています。
4.世間話に興味が持てない
ASDグレーゾーンの人は雑談が苦手な人が多く、特性のために興味を抱けるものの範囲が狭く、世間話で扱われる話題に興味が持てないことが少なからずあります。
5.一人が好きだけど誰かといたい
ASDグレーゾーンの人は一人で楽しめる趣味を持っていたりと、一人でいることを好む面がありますが、それでいて情緒的な部分も持っていますので誰かといたい気持ちもあります。
6.人に気を使いすぎてしまう
5で述べたことの原因とも言えますが、ASDグレーゾーンの人は人に気を使っている場合が多くあります。
気を使いまくってやっと人並レベルかどうかと思っている人が多く、頑張りすぎてしまいます。
7.自分を責めがち
育ってきた環境の影響が大きいと思われますが、ASDグレーゾーンの人は他責より自責の思考をしている人が多いです。
「アスペルガー=他責・モラハラ」といったような間違ったイメージが世間的にはあるかもしれませんが、ASDグレーゾーンの人はそういったイメージとは遠いところに位置しています。
8.疲れやすい
ASDグレーゾーンの人は上で述べたことや、そのほかの特性によって心身への負担が多く、よって疲れやすいです。
9.正義感が強すぎる(指摘してトラブルになるか、言えずに思い悩む)
ASDグレーゾーンの人は感情よりも論理的思考が強い場合が多く、自身の価値観に照らし合わせた公平性や平等さを重んじるために、他者に何かを指摘してトラブルになることがあります。
また、言えずに一人思い悩むこともあります。
折り合いをつけたり、相手との押し引きのバランスを調整するのが不得意ということも影響していると思われます。
10.発達障害のコミュニティに馴染めない
ASDグレーゾーンの人は確定診断を持っているASDの人やADHDの人とは価値観やペース、悩みの質などが異なる場合が多いです。
よって、発達障害系の当事者コミュニティに行っても馴染めない場合が多いでしょう。
【悩みを抱えているASDグレーゾーンの人の課題とは】
次に、ASDグレーゾーンの特徴的な悩みを抱えている人が直面する課題について見ていきます。
1.社交的なスキルの不足
特性により、獲得の難しいスキルがASDグレーゾーンの人にはあります。
そのため、以下のようなことが起こります。
- 社交辞令が分からない
- 報連相(ほうれんそう)が苦手
- 電話が苦手
- 臨機応変な対応が苦手
- みんなでランチなどの慣習がストレス
- 派閥や忖度が嫌い・できない・馴染めない
2.コミュニケーションの齟齬
ASDグレーゾーンの人は定型発達の人とは異なったコミュニケーションスタイルを持っています。
そのため、コミュニケーションに齟齬が起きるのですが、以下のような要因が根底にあります。
- 察することが苦手(はっきり言いたい)
- 間接表現より直接表現を好む
- 「みんな仲良く」より問題解決(質の向上)がしたい
- 雑談する意義が分からない(「雑談に何の意味があるのか」という究極の合理的思考)
3.狭い関心範囲と反復行動
ASDの人と比べるとASDグレーゾーンの人はこの特性は薄いかもしれません。
しかし、以下のようなことがよく聞かれるので、課題としては存在しています。
- うわべではない本質的なものを好む
- やらなくてはいけないことでも興味のない事はできない(頑張ってやるとうつになるし、人一倍頑張ってやっても低クオリティ)
- 雑談が苦手(この項目において雑談が苦手というのは、「みんながしている話の内容に興味がなくて話に入れない」というものです。具体的には「芸能人のゴシップ」などです。)
4.自他境界の曖昧さ
自他境界とは「自分と相手とは別々の存在なんだという感覚や線引き」のことです。
これが曖昧だと自分のことを他者に押し付けすぎ、もしくは、他者から押し付けられたことでも何でも受け入れすぎてしまいます。
ASDグレーゾーンの人に多いのは過度に受け入れてしまうパターンです。
簡単にいうと「自分がない」、という状態です。
自分がないと他人に振り回されるので、つらい思いをすることが多くなります。
ASDグレーゾーンの人にとっては他者の要求に対して、自分が応えられる範囲を見極める力と調整力、もしくは断る力などの自己表現力が必要になります。
また、自身のASDを自認する前のコミュニケーション方法だと、押し付ける気はないけど押し付けになっているということもあり得ますので、留意しておきましょう。
【ASDグレーゾーンの人の課題の解決策】
ASDグレーゾーンの人の課題の解決策は、以下のようなことがあります。
- 自分自身の特性を理解する
- コミュニケーション能力の向上
- ストレス管理
- 継続的な学習と成長
- 当事者会に参加する
1. 自分自身の特性を理解する
ASDグレーゾーンの人は、自分自身の特性を理解し自己認識を深めることが重要です。
自分がどのようなことに苦手意識を持っているかや、どのようなことが得意なのかを把握し、それに合わせた環境を模索することが大切です。
これらの助けになるコンテンツは以下のものがあります。
- 認知行動療法
- 書籍、ネット、SNSなどで調べる
2.コミュニケーション能力の向上
ASDグレーゾーンの人は、コミュニケーションに苦手意識を持っている場合があります。
しかし、この社会では否が応でも他者とのコミュニケーションが欠かせません。
相手の話を理解し要望を読み取る力や自己表現力などのコミュニケーション能力を向上させることが必要です。
これらの助けになるコンテンツは以下のものがあります。
- ソーシャルスキルトレーニング(福祉施設主催のプログラムやワークショップなど)
- コーチングの習得
3.ストレス管理
ASDグレーゾーンの人は、社会的なストレスや不安を感じやすい傾向があります。
現代社会では、そのようなストレスに耐えるためのストレスマネジメント技術を身につけることが重要です。
これらの助けになるコンテンツは以下のものがあります。
- 趣味や運動
- 瞑想、マインドフルネス
- 生活リズムの改善、朝日を浴びる
- 信頼できる人と過ごす
信頼できる家族や友人がいれば良いですが、そうでない場合は福祉の支援者を探しましょう。
4.継続的な学習と成長
ASDグレーゾーンの人は、切羽詰まった状況にいる人も多く、また、長期的な視点で物事をとらえるのが苦手かつ、その成果を過小評価してしまいがちなため、すぐに成果の出ないことに取り組む意欲が湧きにくいと言えます。
しかしスキルアップに取り組むことで得られるものは計り知れないものがあります。
必ず生活の質の向上につながります。
また、周囲の人と比較して自分自身を見失わないようにすることも大切です。
自分の成長に目を向けられなくなったときは人と比べるのではなく過去の自分と比べましょう。
例えば、3年前の自分と比べてみて下さい。もしかしたら健康面や職を失ったなどの、下がってしまった項目もあるかもしれませんが、それを含めたうえでも確実に今の自分のほうが経験値が高く成長していると感じる部分があるはずです。下がってしまった項目さえもあなたを彩る深みや他者に優しくできる経験となっているはずです。
これらの助けになるコンテンツは以下のものがあります。
- リスキリング(学び直し事業のコンテンツ)
- 資格取得、○○教室
- コーチングを受ける
5.当事者会に参加する
そして1~4全てに共通して、成果が期待できるのが当事者会への参加です。
ネットで得られる情報は有益ですが、直に交流する中で実践的に気づきや学び、共感を得ることがとても重要です。
筆者の団体が主催する当事者会がありますので東京近郊の方は参加を検討してみてください。
日程などの詳細をこちらからチェック
【周りの理解も必要】
ASDグレーゾーンの人々が社会で活き活きと過ごすためには周囲の人の理解が必要不可欠です。
全ての人がASDグレーゾーンについて正しく理解することが理想ですが、現実的にはASDグレーゾーンに限らず、まだ認知度の低い事柄については、その当事者自身の啓蒙活動が求められます。
とはいえ、一般の人は広く世の中に訴えるというよりは、身近な人に自分自身の特性について正しく理解してもらい、「どのような配慮があればどのくらいのことができるのか」といったことを伝えるのが良いでしょう。
また、「合理的配慮」についても当事者と周囲の人が一緒に話し合うことが望ましいでしょう。
どちらかの負担が大きくなりすぎないように調整することが重要だからです。
ある人にとっては負担ではなくとも、別の人にとっては負担ということは沢山あり、それは本人の感覚ですから、話をするまで分かりません。
当たり前のことですが、しっかりと伝えあうことが大切です。
ASDグレーゾーンの理解を深めるために、周囲の人が取り組むと良いコンテンツは以下のものがあります。
- 書籍での学習
- ペアレントトレーニング
- 親業
- コーチングの習得
- 家族・支援者向けの会やセミナー
- ASD関連の当事者会(家族・支援者として参加する)
【ASDグレーゾーンの人が受けられる支援について】
ASDグレーゾーンの人が受けられる支援はまだまだ少ないのが現状ですが、探せば何とか繋がれる程度には、ないことはないです。
ただ、どんな内容の支援を受けるかは重要ではありますが、それ以上に重要なことは支援員さんの人がらや支援に向き合う心構え、そして相性のマッチングです。
ある程度の数を訪ねていくことが必要になりますので、以下を参考に探してみて下さい。
医療
病院・クリニック(精神科・心療内科)
ASDは精神障害の中の発達障害に分類されます。
発達障害に詳しい精神科・心療内科を受診し、診断、投薬によって生活の質が向上する人もいます。
自立支援医療
通院が中長期になる場合は「自立支援医療制度」を利用して、金銭的負担を軽減しましょう。
障害者手帳
障害者手帳を取ることで、様々な福祉などの制度を利用することができます。
主な負担軽減には以下の物があります。
- 交通機関の割引
- 文化的施設等の割引
- 税金の控除
福祉
まずは総合案内的な相談・窓口に行きましょう。主なところとして以下があります。
- 保健センター
- 発達障害者支援センター
就労・生活サポートの面で通える事業所は主なところとして以下があります。
- 就労移行支援事業所
- 就労継続支援事業所(A型・B型)
- 障害者就業・生活支援センター (なかぽつ)
就労・生活サポートの制度として以下があります。
- 障害者雇用
- 障害年金
当事者(居場所、学習)
どんなに公的な制度や福祉が充実しても、実体験を伴う当事者同士のコミュニティには代替できない価値があります。居場所や学習の場として以下があります。
- 当事者会
- 当事者カフェ・バー
- ネット SNS・ブログ・YouTube
留意点
医療や福祉にはそのサービスを受けるために、障害者手帳など何かしらの診断等が必要なものが多くあります。
「グレーゾーンだと確定診断がないので根本的に無理なのでは?」と諦めてしまう人もいるかもしれません。筆者もその一人でした。
しかし、実際にはASD以外の精神障害で手帳を取ったり、お医者さんと相談して薬を出してもらったりといったことが可能です。
また、長期的に担当医の診療を受ける中で、生活上で困っていることを適切に伝えられれば、確定診断が出る場合もあります。
諦めずに支援を求めていきましょう。
【良いところに目を向ける】
今、持っているASDグレーゾーンの特性によって不利益を被っているとしても、ASDグレーゾーンの特性は長短、表裏一体です。
上手くいかない面にばかり目を向けていると、自信を失い、自己肯定感が下がります。
特性の捉え方を変えたり(リフレーミング)、上手に活かすことで自信も自己肯定感も作っていきましょう。
例えば、ASDグレーゾーンの人には、以下のような良いところがあります。
- 独創的な着眼点
- 流行に左右されずに自身の興味対象に熱中すること
- 細かな部分まで注意を払うこと
1.独創的な着眼点
ASDグレーゾーンの人たちは、独創的な着眼点を持っています。
今あるものの問題点や、このままだと立ち行かなくなることによく気が付きます。
適切に伝える表現力を身につけることで、重宝される存在になるでしょう。
2.流行に左右されずに自身の興味対象に熱中すること
ASDグレーゾーンの人たちは、自身が興味を持ったことに対して深く熱中し、一般より詳しい知識を持つことがあります。
そのため、それ自体が希少価値となることをまずは認識しましょう。
そのうえで、何かに役立てる手はないかと日頃からアンテナを張っておくと良いでしょう。
3.細かな部分まで注意を払うこと
ASDグレーゾーンの人たちは、細かな部分まで注意を払うことができます。
例えば、物事を細かく区切って考えたり、繰り返しの作業をこなすことが得意です。
そのため、仕事での作業効率の向上や、正確性を求められる業務に向いていることがあります。
実際の会社などでこれらの良いところを活かすのは難しいかもしれませんが、こういう良いところがあることを認識しておくことが大切です。
ふとした瞬間に点と点が繋がるように、何かに活かせると気づくこともあるでしょうし、仕事を選ぶ時の基準にしたり、他者に自身のことを伝えるときの基準にもなるはずです。
良いところがあると気が付いたら、それを大切にして、時間をかけてコツコツと育て成長させて行きましょう。
【まとめ】
ASDグレーゾーンの特徴ということで、悩みや解決方法について見てきましたが、この記事の要点は、「自分を理解し、他者を理解し、スキルを身につけ、足りないことを学習し成長し続ける」ということであり、そしてそれによって「道は開ける」、ということです。
また、その際に心に留めておいてほしいことは、
- 定型発達(他者)に合わせすぎない
- 息抜きを忘れずに
この2点です。
しっかりと自分を見つめ、無理のない範囲でゆっくりじっくりと取り組んで行きましょう。
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